南南西に進路をとれ~SXSW2013レポート
SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)は、米国テキサス州オースチンで毎年盛大に開催される盛大なお祭りである。
近年では、CES(Consumer Electronics Show)をも凌ぐ最先端のサービスの発表の場として認知されているこのイベントを、念願かなって見学することができた♪
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アプリ・サービスの登竜門SXSW
ヒッチコックの傑作北北西に進路を取れの原題は North by Northwest なのだけれど、このSXSW(South by Southwest)というネーミングは、オースチンが合衆国の南南西にあたるから、ということらしい。
2週間の期間中、日中は会場にてセミナー、勉強会、トレードショーが行われ、夜は1,000組以上のライヴパフォーマンスが繰り広げられる。
もともと音楽のコンベンションとして1986年にスタートし、その後1994年に映画、更に1998年にインタラクティブ部門が独立して今日に至る。
近年はインタラクティブ部門への関心が急速に高まっており、2009年には音楽部門の参加者数を凌ぎ、経済効果も1億ドルと報じられた。
インタラクティブの世界でもSXSWが強い影響力をもつイベントだということは、SXSW期間中にブレークしたアプリ・サービスに贈られるインタラクティブアワードの「デジタルトレンド特別賞」の顔ぶれで分かる。
それまでは知る人ぞ知る存在だったTwitter (2007年)、Foursquare(2008年)、GroupMe (2011年)、Pinterest(2012年)を「発掘」したのが、SXSWだった。
前年にローンチしたばかりのTwitterは、2007年のSXSW会場の至る所に大型モニターを設置し、会場のユーザーたちのタイムラインを
「いまXXのブースにいるけれど、このサービスがすっごくクールだぜ!」
「○○で××のライヴがもうすぐ始まるよ!」
と流してみせた。
この、リアルタイムに様々な情報が流通する面白さや便利さ、コメントに対する不特定者からの瞬時のレスポンスの感動は、伝説的語り草となっている。
つまり、世界中のスタートアップが、年1回のSXSWというお祭りをターゲットに
- SXSWへのエントリーを前提にサービスをローンチしたり
- 自社ブースにローンチ前のプロダクトを置いて自由に触ってもらい率直な意見を求めたり
という具合なのだ。
シリコンバレー等で確立しているベンチャー創業の生態系と同様のことが、ここで、まさにインタラクティブに起こるのである。
SXSWが他のカンファレンスイベントと一線を画すユニークな点は、まさにそこにある。
どうにかしてるぜ、オースチン
インタラクティブ部門目当てで来ている(それにミュージックは未だ開幕すらしていない)のに、ブーツィーのギグが観られるなんて!
スタートアップの表彰プログラムを観たくて、SXSWのwebsiteから探していたら、その会場は、コンベンションセンターから10分ぐらい歩いた、街外れにあるホールだという。
ACLというそのホールの正式な名称は、その名もAustin City Limits。
中に入ると、ロビーや廊下には、ローリング・ストーンズ、ジャニス・ジョプリン、ジョン・レノン、エリック・クラプトン、ジム・モリソン、ザ・フー、ジミ・ヘンドリックスなんかのモノクロの写真が整然と掲げられていて、その飾り気のなさがちょっとグッとくるんだよ。
あ、ここはロックの殿堂なんだなって。
ハードロックカフェをちょっとだけキレイにした感じ、とでも言おうか。
で、肝心のギグなんだけど、一応インタラクティブなんで、テキサス州スタートアップ協会、全米スタートアップ協会、オースチン市商工会議所あたりのお偉いさんが出てきて話をしたり、最優秀スタートアップを選んだり、ひとわたり固い式典が進行している。
その横で、何かキャンバスにペインティングしているヒッピーなお姉ぇさん居るし、ステージの進行もちょっと異常というか、ありえない感じなんだね、最初から。
そうこうするうちにバンドによるエンターテイメントの時間になって、また、出てくる前座のローカル(と思われる)バンドが、すごく達者なんだよ。
アコースティックの弾き語りのデイブ・マシューズみたいな渋い声のお兄さんは、足元でディジタルエコー効かせてギターからコーラスまで重ねて、自分の世界作ってたし(まるでジャコ・パスが演ってたみたいに)。
次のファンクバンドは、ラッパ隊3人と女性コーラス2人にもちろんオルガンとパーカッションまで加えて、厚みのある音でグルーブだしてたし。
すごい、とても嬉しい、誤算だった。
最後に登場したブーツィーは、もう圧巻。
陳腐な言い方だけど。
オープニングのCGの映像を使ったSEから、一気に世界に惹きこんでしまった。
野太く、かつ甘い歌声も潜在だ。
1.5h。
途中のお着替えは、2回。
電飾の星型ベースは、お約束。
最後は、観客席にダイブして大盛り上がり。
一切の手抜き、なし。
これを「圧巻」と言わずして、何と言おうか。
自分を含め、せいぜい200人程度の観客は、誰も入場料を払っていない。
スタートアップの連中は、それに加え、飲食まるで無料だ。
裏でいくらギャラをもらっているのか知らないが、若者を祝福するお祭りに、こうして大御所がキッチリ仕事をする。
この国のエンタメ業界の、ちゃんとしてさ加減と言うか、音楽の半端ない染み込み方に、ちょっと眩暈がした。
未だに(反社的な)特殊な人たちが仕切っている日本の芸能界は、根本的に、何か腐ってるな。
こなれていない、というか、借り物、というか。
嘘だと思ったら、オースチンに、そしてニューオーリンズに行ってみるがいいさ。
嫌でも日本のマヤカシな状況を、痛感するだろうから。
ACLを出たのは11:30pm過ぎ。
次に向かったのは、Pete’s Dueling Piano Bar。
何がデュエリングなんだと思ったら、何とグランドピアノが2台向かい合って置かれていて、まるで対決するみたいに2人のピアニストがロケンロールしているんだ。
ピアノの上にはチップと共に置かれたリクエストカードが列を成して置かれていて(まるでラーメン屋のカウンターのようだ)、当然お客も大合唱。
何だか門外漢のこっちまで楽しくて叫びたくなる感じだ。
このまま腹ペコじゃ眠れないから、何か食わなきゃ。
1amともなるとマトモな飯屋は一軒も開いていなくて、ちょっといい雰囲気のバーは激混みだし、仕方がないので直ぐ入れそうな店を探したんだけど、Casino el Caminoという怪しい蛇メタバーだけだ。
バーカウンターの中には、タトゥーとピアスだらけのお兄さんお姉さんしかいない。
見回すと、客も含めて、彫りモノしていないのは、私ひとり。
夕方から降り出した雨足は激しさを増すし、ここは恐怖の館か。
きっとキッチンの奥では、フランケンシュタインが今まさに命を吹き込まれている頃だろうよ。
時折稲妻も光ってるし。あはは。
という訳でオースチンの夜は更けていくのであった。
ホテルに帰ったのは、2amを回った頃。
いくら、3amまでシャトルバスが回遊しているからって、よい子は決して真似してはいけません。
もう一度言おう。
どうにかしてるぜ。オースチン♪
SXSW2013 参加雑感
クリエイティビティの土壌となるような「熱気」と「混乱」に溢れたお祭り。
個別イベントが同時並行で進行するため、全容把握は到底不可能。
一種、学園祭的とでも言うべき、ゆる~くカジュアルな雰囲気。
セレンディピティに従い、気になったことがらを現地でどんどん調べる姿勢が大切だが、何れにせよ、2日では体験・租借ともに限界あり。
見学者は、20〜30代の若者が圧倒的。
全員がスマホやタブレットを持ち、大半はApple製(印象としては80〜90%ぐらい)。
会場は、コンベンション・センターを中心に、ダウンタウンの周辺ホテルのボールルーム等。
そのため、街が丸ごとイベント会場。
インタラクティブ、フィルム、ミュージック3部門のオフィシャル・イベントの総数は5,000以上。
種類もいろいろ。
- Tradeshow:展示セクション、1,500以上のブースで企業が各々をPR、エリアの一角は国別対抗
- Meet Up:テーマや肩書き別に、ある分野に興味のある人が1室に集まって名刺交換して語り合う
- Mentors Session:1人数分ずつ、自分のキャリアやスキルについて、経験豊富なメンターに1対1で相談できる
- Book Reading:著者が、自書の内容をプレゼンする
- Book Signing:会場内で販売している本に著者がサインする
- Interactive Accelerator:アプリ、サービス、ツール等をスタートアップ48社がプレゼンし審査員がジャッジする、賞金あり
- Party:IT企業がスポンサーとなって無料で飲食できるものから、Awards受賞者向けまで様々、タコスパーティやらBBQパーティやら
- Sessions:単独/対談/パネル等数百
内容も多岐、3Dプリンタ等注目テクノロジー/マーケティング手法/プログラミングのTIPs/起業の心得/IT業界の転職方法等、ともかくカオティックなほど種々雑多
観客からの質問は、その場のツイートから面白そうなものを裏方が吟味・抽出し、スピーカーに伝えられる形式で進む
などなど。
特に注目を集めたセッションは、何と言っても、SpaceXのイーロン・マスクのキーノート・スピーチ。
インタビュアーはクリス・アンダーソン。
詳細は次章。
他は、アル・ゴア(元副大統領、但しイーロンの方がずっと集客していた)、ティム・バーナーズ=リー(WEBの発明者)、ピーター・ティエル(フェイスブック投資者)等。
日本からの参加者は、見学者で言うと日本人は1%も居ない印象だが、セッション他に積極的参加が次第に目立ってきた。
セッションでは、真鍋大度(メディアアーティスト)+菅野薫(電通)のCreative Collaboration Using an Open Source Modelや、伊藤博之(クリプトン・フューチャー)のMiku(初音ミク):The Open-Source Girl Who Conquered the Worldなど。
Tradeshowでは、10社ほど(テレパシー社、Factory.org、Sync Music Japan、電通の社内プロジェクト等)が出展。
Interactive Awardsでは、Personal部門でファイナリスト5プロダクトのひとつにnubot(スマホを活用したビデオチャット人形、もともと社内の遠距離打合せ用に開発したものだが、現在は一般のユーザ向けに予約販売中)が選ばれるなど、プレゼンスが向上。
インタラクティブアワードの「デジタルトレンド特別賞(Breakout Digital Trend)」。
今年の受賞者はLeap Motion。
これは空中の動きを精密に捉える、3Dモーション・キャプチャ・デバイス。
USBメモリよりも一回り大きいくらいのサイズのLeap Motion機器をパソコンに接続すると、空中で指先を動かすだけで自由自在に、ポインタの移動、Webブラウザのコントロール、地図の拡縮、筆による細やかな線の描写、ゲームのキャラクターや乗り物等の制御等の操作が可能。
コントロール空間はLeap Motionの上空の2.5立方メートル。価格は69.99ドルと超安価。
1/100ミリ単位の動きが認識可能。
両手と10本の指をそれぞれ独立に同時に認識。
指だけでなくペンなどのオブジェクトも精密に捉えることができる。
このデバイスは衝撃的だ。
ウェアラブルなI/Oデバイスの進化は、よりリアルで臨場感あふれる体験と、ディジタルデバイドの圧倒的な引き下げに大きく貢献する。
五感の拡張現実とも言うべき「マイノリティ・リポート」の世界の実現も、遠くはない。
また、ウェアラブル・デバイスによるあらゆる細かい日常行動のログ化が進むと膨大なビッグデータが蓄積されるが、クラウドソーシングの動きも相まって、更に情報の統合/加工/整理が加速されることだろう。
目立ったトレンドを(無理にでも)抽出すると:
- ビッグデータの絶対的必要性
(クラウドによってアグリゲーションが加速、今後はサービス差別化の必須条件) - ウェアラブルなI/O
(Googleの“しゃべる靴”のコンセプトモデル、 Leap Motion、テレパシー等) - リアルなもののオンライン化
(O2Oのeコマース、3Dプリンタやメイカーズ・ムーブメントの台頭)
等。
【速報】SXSWインタラクティブ2013の概要
日程:3/8金〜 3/12火
参加者:25,000人
#SXSWというハッシュタグを含む週間ツイート数: 31.5万
(そのうち、モバイルからのアクセスの内訳で言うと、iOSデバイスが74%(60%がiPhone、14%がiPad)と圧倒的)
ロケーション関連では、Foursquareのチェックイン総数はSXSWだけで260万/日(普段は200万/日程度)
イーロン・マスクのキーノートスピーチ
SXSW2013インタラクティブのハイライト。
キーノートスピーチの模様を、お伝えする。
スピーカーはイーロン・マスク。
南ア出身のシリアル・アントレプレナー。
1999年にXcom社(PayPalの前身)設立、2004年にテスラモーターズ(電気自動車メーカ)取締役会長に就任、2006年にソーラーシティ社(太陽光発電会社)を共同で立ち上げ。
現、スペースX社(宇宙商業軌道輸送サービス)の共同設立者、およびCEOである。
インタビュアーはクリス・アンダーソン。
物理学の学位をもち、科学系学術誌、エコノミスト誌のエディターを経て、2012年まで『WIRED』の編集長。主な著書は『ロングテール』、『フリー』、『メイカーズ』等。
現、3D Robotics社の共同設立者およびCEO。
聴く前から期待が膨らむ2人じゃないか。
以下は抜粋。
子供の頃からの夢である「宇宙開発」ビジネスを起業でき、すごく興奮している。
3回の失敗の後、再利用を目指すファルコン型ロケットの打ち上げに成功した。
費用と品質を管理するため、大部分のコンポーネントを自社で開発。
最近の技術は、ここまで来た
(するとここで、「グラスホッパー」と呼ばれるロケットがエンジンを噴射して上昇し、いったんホバリングしてから、ゆっくりと発射地点に軟着陸する映像が流れ、会場は熱狂的喝采に包まれた)。
これは、再利用可能ロケットの飛行としては、最大の成功(上昇高度80m)だ。
宇宙旅行に興味を持ったのは、NASAのウェブサイトに「火星に行くことに関する記述がなかった」から。
アメリカは、探検家の国。
宇宙旅行が、やがて手の届く値段で提供できるようになることを、皆に信じてもらいたかった。
だから、自分が火星に行くことを推進しようと思った。
ただスペースXは、何もNASAの代わりになろうというのではない。
今後の約50の打ち上げ予定のうち、3/4はNASAからの受注であり、最大の顧客である。
#Askelonのツイートに答える質疑応答でも、面白い発言が相次ぐ。
教育に関して
できるだけインタラクティブで、魅力的で優れた「ビデオゲームに近いようなもの」にすればいいんじゃないか
子供に関して
子供たちは素晴らしい
皆、親になると判る
火星に行きたいか?という質問に対して、何と、
もちろん
火星の上で死にたい
との発言あり。
会場は、割れんばかりの拍手。
最大の過ちは?という質問に対して
ありとあらゆる過ちを犯したよ
そして、ここで随分考え込んで、その後に紡いだ言葉が素晴らしい。
皆、個性より才能を重視しすぎるのはよくない
善良であることは、それだけで美徳なんだ
もちろん会場は、再び拍手喝采である。