土用の丑には鰻を食うな!
読者の方から「鰻を書いて」とリクエストされました。
忸怩たる思いを堪えつつ、土用の丑である本日、ウナギについて書きたいと思います。
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そもそも「土用の丑の日」とは
「土用」というのは、季節の変わり目にあたる立夏・立秋・立冬・立春直前の、約18日間を言います。
ですから、「土用の丑の日」とは、「土用期間中に訪れる丑の日」のことです。
2019年の土用の丑の日は、以下のとおりです:
- 1月28日
- 4月22日
- 5月4日
- 7月27日
- 10月31日
今夏の土用の丑の日は本日、7月27日です。
「土用の丑の日」には何故ウナギを食べる?
「土用の丑の日」と言えば、ウナギ。
あなたもそう思い込んでいますよね。
2017年の土用「一の丑」の1日だけで、年間消費の14%もウナギを食べているんです。
7月1ヶ月の通算では、何と37%もの消費。
異常な「お祭り」状態です。
【出典】総務省統計局 家計調査 土用の丑の日と「うなぎのかば焼き」
いつの頃からか私たちは、土用の丑の日にはウナギを喰うもんだ、と信じ込んでいます。
しかし、この「強迫観念」の正体は、ある仕掛けられた「セールスプロモーションの結果」なのです!
土用はそもそも季節の変わり目に当たりますし、特に夏場は体力が衰える季節ですから、滋養のある食べ物を摂ろう、という意図は理解できます。
実際、疲労回復や食欲増進に効果的なビタミンAやB群などを多く含み、かつ消化吸収が良いウナギは、夏バテ防止にはピッタリの食材と言えます。
しかし一説によれば、蘭学者の平賀源内が、鰻屋から「夏に売り上げが落ちる」と相談を受け、夏場が旬でも何でもないウナギを売らんがために、店先に「本日丑の日」と貼り出したのが、「土用の丑の日」にウナギを食べた始まりだと伝えられています。
こんなコピーライティングが原因だったのです!
ちなみに、「丑の日」なので「う」のつく食べものを食べると病気をしない、という言い伝えもあります。
先日放送された「みをつくし料理帖」の「う」尽くしの回では、卯の花(おから)和え、梅土佐豆腐、瓜の葛ひき、埋め飯(うずめめし、具を中に隠した丼)、梅の蜜煮などの料理が紹介されていました。
この他にも、うどん、ウサギ、馬肉、牛肉など、何でもよかったらしいですよ。
全くいい加減で、おおらかな先達ですね。
ところでウナギの旬はいったいいつなのか
天然ウナギの旬は秋~冬
天然ウナギの漁は5月頃~12月ですが、旬は、秋から冬にかけてです。
特に、水温が下がりはじめる、10月以降が旨いとされています。
というのは、水温が10℃以下になると、ウナギは、摂った食物を充分に消化吸収することができなくなり、泥の中に潜んで冬眠する習性をもっているからです。
この、冬眠に備えてたくさん栄養を蓄えた個体が旨い、という訳です。
中でも、川や湖で5~15年かけて成長し産卵のため川を下る「下り鰻」は、栄養を蓄えて特に旨いとされています。
身全体に脂がのった下り鰻は、9月以降の、台風や大雨の翌日以降、川を下ることが知られています。
養殖ウナギには旬はない
一方、ビニールハウスなど徹底した温度管理のもとで養殖(正確に言うと「蓄養」)されるウナギには、季節による味の差はありません。
つまり、養殖モノには特定の旬はない、ということです。
夏の土用期の需要に合わせて大量出荷されるので、夏(6~8月)頃が旬だという信じている方も多いようですが、これはトンでもない勘違いです。
自然には成鰻まで5~15年かかるウナギを、僅か半年~1年で出荷する養殖モノは、旬の概念がないばかりか、生物としては相当無理して育てたものと言えます。
ますます希少になる天然ウナギ
私たちが日ごろ魚屋やスーパーなどで目にする国産ウナギは、ほぼ養殖モノです。
2018年度の生産統計では、養殖モノの生産高が15千t/年に対し、天然モノの漁獲高は僅かに68t/年! たった0.5%に過ぎません。
市場ではこれ以外に、輸入の養殖ウナギが国内生産量の倍以上(33千t/年)も流通しているので、国産天然モノは、全供給量の0.1%ということになり、もの凄く、トンでもなく希少だと言えます。
【出典】水産庁 ウナギをめぐる状況と対策
ニホンウナギは絶滅危惧種
ニホンウナギの個体数は、激減しています。
シラスウナギと言われる日本ウナギの稚魚は、1970年代後半からめっきり獲れなくなり、それ以降も継続的に減少してきました。
グラフを見ると、一目瞭然。
【出典】水産庁 ウナギをめぐる状況と対策
そしてついに2013年2月、二ホンウナギは、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されてしまいました。
更に2014年6月には、国際自然保護連合の最新レッドリストに「絶滅の恐れがある野生生物」として追加指定されました。
養殖モノと全く異なる、天然モノの味わい
天然モノは、淡白でアッサリしていて、脂が乗っていながら、くどさが全くありません。
また、味に力強さがあります。
蒸さずに焼きだけで食べると、その旨さがとてもよくわかります。
養殖モノとの差は歴然で、両者は、「全く違う食べ物」だといえます。
喰うべきか喰わざるべきか、それが問題だ
年々減少の一途を辿っている天然ウナギは、まさに絶滅の危機に瀕しています。
それならば養殖ウナギを食べればいい、と言うかもしれませんが、それは的外れです。
ウナギの「養殖」は、人工孵化卵からの「完全養殖」ではありません。
正確に言えば、捕獲した天然の稚魚を短期間に効率的に太らせる「畜養」です。
なので、養殖ウナギであろうと、限りある天然資源を消費していることに、何ら変わりはないからです。
そういう種を、在るうちに食べたいが、しかしながら種の保存の観点で言うと、「完全養殖」が商業ベースにのるまで、我慢すべきなのかもしれません。
非常に悩ましいトコロです。
いずれにしても、もし口にする機会があれば、いのちに感謝していただくことと致しましょう。
夏の土用の丑をターゲットに半年前から蠢く闇
2014年11月現在の国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの掲載状況
【出典】水産庁 ウナギをめぐる状況と対策について
夏の「土用の丑の日」までに出荷サイズに育つシラスを求め、台湾で稚魚を買い付け、香港経由で合法輸入するトンでもない手口が横行しているようです。以下に二つの記事を引用します。
追跡「うなぎ」のアジア闇ルート(NHK 特集 2016年12月)
1キロ300万円ほどに上ることもある、日本人が大好きな「白いダイヤ」ウナギ。背景には、ウナギの激減に加え、稚魚をめぐる「不透明な国際取引」があります。
日本で育つウナギの稚魚=シラスウナギのおよそ半分が外国産です。値段の高騰に拍車をかけているのが、日本が2006年までほとんどを輸入していた台湾の動きです。証言から見えてきたのは、台湾、中国大陸、香港を経由して日本に至るルート。台湾から日本へ輸出すれば「密輸」ですが、輸出規制のない香港を経由させることで合法的な香港からの輸出品として運ぶ、いわば「ロンダリング」のからくりがあったのです。
日本の消費者が『国産ウナギ』を好むため、稚魚で輸入し、日本の養殖場で育て『国産』にします。養殖には最短でも半年かかるため、ウナギ消費が集中する夏の『土用の丑の日』に出荷を間に合わせる事情から、1月上旬までに稚魚を仕入れなければなりません。しかし日本では、1月上旬までにはシラスウナギが十分に獲れないので、11月から12月にかけて獲れる台湾の稚魚を求めるのです。
国内の養殖業者やウナギ店の中には、土用の丑の日に向けて出荷が集中する状況を変えようと、独自の取り組みを始めたところもあります。どうすれば激減するウナギを守れるのか。一人一人が考えることが大切だと思います。
【NHKクローズアップ現代】2016年12月1日 “白いダイヤ“ウナギ密輸ルートを追え!
ウナギ密輸の実態を暴く(WEDGE REPORT 2016年7月)
ウナギの取材を始めると、次から次へと違法行為や不正、業界のコンプライアンス意識の低さなどが明らかになってくる。「今年も土用の丑の日がやってきました。おいしくウナギをいただきましょう」などと言っている場合ではない。
ウナギは、人工孵化から育てた成魚が産卵し、その卵をもとに再び人工孵化を行う「完全養殖」の実用化技術が確立していない。つまり、天然の稚魚(シラス)を捕獲し、養殖の池に入れて育て、出荷するしか方法がない。
日本鰻輸入組合の森山喬司理事長に、台湾から香港を経由して、日本へシラスが入ってくる不透明な取り引きの実態について取材したところ、その事実を認めたうえで、「ただ、これは今に始まったことではない。いわばずっと禁止状態で、同時に日本はずっと輸入している状態だ。今のところ、香港からの輸入は日本政府も認めている」と話す。「台湾では日本よりシラスの漁期が早いことから、夏の〝土用の丑の日〟までに出荷サイズに育つシラスが多く、日本の養鰻業者にとってこのシラスはかなりありがたい存在」と続けた。シラスの価格は日々変動するが、土用の丑の日に間に合う時期のシラスは数年前から1キロ300万円を超すことが常態化しており、これは銀の価格をもしのぐ。
日本のシラス問屋、養鰻業者のみならず、絶滅危惧種を大量販売し続けるスーパーや外食店、資源問題には触れず土用の丑の日の消費を煽るメディア、それぞれに責任はある。残念ながら、消費者もこうした状況をつくりあげている一員である。
水産庁のwebsiteには、シラスウナギの取引価格のトンでもない高騰っぷりが、事実として掲載されています。
【出典】水産庁 ウナギをめぐる状況と対策について
徐々に拡がる「土用の丑の日アンチ鰻」の動き
「土用の丑の日は鰻供養のため休業する」という鰻屋も増えてきています。
また、東京八王子の名店「高瀬」では、「毎年土用の丑の日は休業する」と愛ある休業を決めているようです。
【出典】後藤 隆昭@日曜日東イ24a@ryu_さんのツイートとリツイートのまとめ
そもそも「土用の丑の日」にウナギを食べる積極的理由はない
上でも書いたとおり、「土用の丑にはウナギ」という強迫観念は、仕掛けられた「セールスプロモーションの結果」です。
完全に「敵のペース」なのです。
江戸時代ならいざ知らず、21世紀の現在、夏バテ防止に効果のある食材など、いくらでも存在します。
絶滅危惧種のウナギは、放っておいてもらいたいもんです!
「土用の丑は『う』のつくものを食べる日」としたら皆ハッピーなのではあるまいか
ここは原点に帰り、土用の丑は「う」のつくものを食べよう、ということでいいのではないでしょうか。
ツイッター上で楽しい議論がありましたので紹介します。
【出典】 ウナギ絶滅危機を救うため「土用の丑の日」にウナギを守るウシがかっこいい!
ヨーロッパでは一足早く、ヨーロッパウナギの絶滅でバスク民族の伝統食が途絶えました。
「土用の丑は『う』のつくものを食べる」が元々の風習なので、牛なら…牛ならなんとかしてくれる!
そもそも「『う』の付くものを食べれば夏負けしない」って風習から来てるんだから、今こそ一大アピールをしてしまえば県全体が儲かる上に鰻も救われて、誰も損しない最強の体制が構築出来ると思うんですけどね・・・そう思いませんか、香川県さん
つまり、肉うどんにすればいいってことよ!!!
うさぎにしちゃいます……? うさぎに……w
うさぎさん、早くウナギくんを連れて逃げて!
そこへ颯爽と現れる「ウーロン茶」!
オチャラケてはいますが、絶滅の恐れが少しでも回避できるなら、アリではないでしょうか。
そもそも平賀源内だって、軽いノリでコピーを書いたに違いないのですから。
土用の丑も老害か(あくまで仮説ですが)
少し調べると、またも驚愕の事実に直面しました。
このグラフは、1世帯当たりの鰻蒲焼支出金額の推移を示したものです。
この15年で、支出金額は漸減しています。
逆に、鰻蒲焼の単価は2倍以上に跳ね上がっていますので、「鰻蒲焼消費量」でいうと、1/3程度に激減している、ということになります。
そんな中、もうひとつビックリするようなデータを見つけました。
このグラフは、2016年、単身世帯における、年齢階級別鰻蒲焼支出金額なのですが、驚くことに、鰻は専ら老人が食べていることが明確に判ります。
【出典】総務省統計局 家計調査(家計収支編)結果
これらのデータから推測するに
「土用の丑にはウナギ」と刷り込まれたお年寄りが、その旺盛な消費需要によって、図らずも、シラスの闇取引や乱獲に加担し、拍車をかけてしまっている
という構造なのだと思われます。
頑固なお年寄りなので、国営放送あたりで(ストップ詐欺被害「私は騙されない」バリに)「土用にウナギを食べるな」キャンペーンを張ってもらうことを期待しますが、賢い消費者も事あるごとに「土用にウナギは迷信だ」と啓蒙してあげることが大事です。
「孫子の為にも、ウナギを食す文化を根絶やしにしないでください!」と訴えましょう。
実態を知って絶滅を回避しよう!
どうすれば、絶滅の危機からウナギを守れるのか。
一人一人が知り、そして考えることが大切です。
マスコミも悪いが、踊らされる消費者も悪いです。
根拠のない愚かな思い込みで、私たちの大切な食文化が失われるようなことがあれば、耐えがたいことです。
ウナギを愛しているなら、是非、夏の間はそっとしておきたいものです。
すずきはちなみに、ここ数年土用の丑の日は、香ばしい蒲焼の匂いのが立ち込める中必死に我慢して、牛丼を食べることにしています!