蛇行せよ、出し尽くせ~江崎グリコ小林正典氏のプロフェッショナリズム
江崎グリコの小林正典(44)氏は、そんな熾烈な競争下の「飽和市場」で、様々な実績を残した菓子開発マーケターです。ポッキーの年間売上50億円アップ、年間売上50億円のチーザの大ヒット、おつまみスナックという新ジャンル開拓など、すさまじい業績を叩き出しています。彼の口から出てくるのは、磨き抜かれたコトバたちでした。
備忘を兼ねてアップしておきます。
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ヒットは「甘くない」
商品開発は、センミツ(千に三つ)の世界。
挫折との戦い。
出勤中も、趣味の人間観察。
行き交う人の心の内を、勝手に妄想する。
月曜は、ライバルメーカーの新商品を、チーム全員で食べる。
暇さえあれば、デパートやスーパーに通う。
雑貨を買うお客さまとお菓子を買うお客さまは同じお客さまだから、女性に満足を与えるという意味では、競合している可能性がある。
難しいは新しい
長ければ3年も考えてきた商品が、販売後たった1週間で結論が出てしまう、怖い世界。
「やったこともないこと」は、「難しいこと」。
できることだけやっても、絶対に「サプライズ」は産み出せない。
失敗を失敗で終わらせたら、「失敗」だってだけだ。
じゃあ次どうする? って考えているうちは、失敗じゃない。
2秒で心をつかむ
「あ、私のあの時にあのシーンでこのお菓子ピッタリかも」と、2〜3秒間で思わせることが大事。
伝わらなければ負けだし、伝われば勝ち。
チーザというのは、チーズたっぷりのスナック。
「ワインをお洒落に楽しみたいが、本格的チーズを切るのは面倒」な女性に提案した。
他にも、「僅か15分のコーヒーブレイクに、一口で満足できるチョコレート菓子」を、家事で忙しい主婦に提案するとか。
そういう具体的シーンをどこまでリアルに描き、味やパッケージデザイン、キャッチコピーの細部に落し込んでいけるかどうか。
蛇行して、混沌とし、出し尽くす
直線的なアプローチでは、小さな成功にしか辿り着かない。
大きな成功のためには、大きく蛇行しながら、混沌としながら、議論を重ねながら、全身から全てを出し尽くした先に「お!それいいね」っておりてくる。
その瞬間を目指す。
人は弱いので、自分が考えたことに対してすぐ及第点をつけたがるが、思考のスタミナをもって考え続けることが大事。
何が正解かは、分からない。
だからこそ、部下の直感を信じ、客の心に響く“何か”に辿りつくまで、徹底的に議論する。
今までチョコレートになかった軸を、言葉として立ててみろ。
贅沢、上質、優雅。
こういう言葉は「使っただけで何となくコンセプトっぽくなる」が、逆に新しさはない。
スーパードライにならえ。
ワインや日本酒にはあるがビールに「辛口」という概念はなかったんだろ。
ギュっと凝縮された具材の旨みって、どういうこと?
閉じ込めると何がいいんだ?
じゃあ、何がお客さまにとってうれしいの?
ヒットは一人では生み出せない、共感の渦が力となる
開発は、挫折と失敗の繰り返し。
だが、みんなに熱を伝え続ければ、何かができる。
営業畑10年の後、商品開発部門へ異動。
ヒットを当てようと意気込み、一人アイディア出しに没頭し、毎日100以上企画を書き出したが、3年かかって上司の助けで売れ筋をようやく一つ開発。
そんな時、社内での試作品に魅かれ、そこで研究部の社員と連日商品化のアイディアをぶつけ合う仲になった。
少しづつ、社内にサポーターができはじめた。
製造ラインをもつ工場、営業、広告、物流と拡がり、最終的にはチーザの大ヒットに繋がった。
プロフェッショナルとは
上下関係とか立場を超えて、共感によって人を動かすことができる人。
その共感を得るために、成功へのビジョンを抜群の解像度で指し示す、それができる人。