オリジナルバンドの曲作りは、試行錯誤の連続
もともとメンバー個人々々のオリジナル志向が強かったので、バンドという表現の場が与えられたらどんどん作っちゃう、みたいなノリで、自然とそうなりました。
そのバンドでは、自分を含め3人が曲を書いていました。
昔から、メンバーにソングライターが何人いるかでバンドの価値が決まる! 的な感覚はあって、その点、アマチュアでしかもドラマー以外が曲を書くこのバンドは、かなり強かったですね。
プロで言えば、4人のメンバーが全員曲を書けるQUEENだとか10CCだとかが最強な訳ですよ、感覚としては。
でも、オリジナル志向が強い割には、バンドのカラーみたいなものには無頓着というか、「いろんなヤツがいろんな曲を書いて混沌としているホワイトアルバム* 状態でいいんじゃない?」といい加減な感じも、そのバンドはサイコーでした。
まあ、複数のメンバーが曲を書くと、どうしてもカラーがまとまらないので、仕方ないよね、という感じです。
ただ、歌詞は基本的に自分で書くことにしているのです。
人が書いた歌詞って、よっぽど気に入らないと歌う気にならないんだよね。
だから、「曲できたから歌詞書いてね~」と無責任にまかせてくれた方が、楽です。
いわゆる「曲先」あるいは「はめ込み」というヤツですが、他人の曲、それもアレンジまでほとんど完成した曲に詞をつける作業は、もちろん、それほど易しいものではありません。
まず、言語の問題。
ボキャブラリーさえ豊富なら、英語の詞をのせる方が、遥かに易しいのですね。
英語の場合、コトバの強弱(=ストレス)自体にリズムがあって、それをメロディに乗せる作業はそんなに難しくありません。
というより、自然にメロディに詩がのって、メロディラインと詞がいっぺんに完成する場合が多いのです。
そりゃ当たり前だよね。英語のロックを聴いて育った人間が、曲作りに使うのは、英語がいいに決まっていますよ。
でも、自分は日本人で、日本語の方がよっぽど細かなニュアンスを伝えられるし、聴く観衆もだいたい日本人だろうから、あくまで日本語で勝負したいと思っているのです。背伸びして英語で書いた曲も、いくつかあるにはあるんですけれど。
日本語の曲のリズムは、コトバの強弱ではなく、むしろ「字数」が支配しているのですね。
「あなた変わりはないですか、日ごと寒さがつのります」みたいな5・7調が多いのも、そのせいです。
反面、小節ごとにキチンと詞をのっけると、「北の宿」のごとく平坦になってしまい、面白くも何ともないのです。
だから、コトバの区切りを小節の区切りから敢えてずらす、というのをよくやります。
自分の曲で「詞先」の場合は、よく譜割りを食ったり余らせたりして、都合変拍子にしてしまうことも、結構しょうっちゅうです。
何でお前の書く曲は、ポップなのに譜割りがヘンテコなんだ? と、よく言われます。
つまり、自分にとって日本語の詞をつける作業というのは、
基本的に字数が制限されているメロディラインの上に
譜割りを意識しながら
かつ適当に譜割りを裏切りながら
コトバをはめていく
という作業です。
シンコペーションを多用するというか、そういうノリが好きなメンバーが書く曲は、原曲自体が「食い」だらけなのに加え、私の歌詞が「譜割り外し嗜好」なものだから、何だかとても変てこなリズムに溢れた曲になったりします。
たとえば、こんな具合。
愛してた信 じてたまーもりつ ーづけたしんじつー をー裏切
ることさえでき たーなら空で もー飛べたの にーだけど
愛してた信 じてたまーもりつ ーづけたしんじつー をー疑
うことさえしな かーったし あわせで 不自由な 日々
解りにくいですね(笑)
それでも、詞をつける作業は楽しいものです。
第一、曲をアタマに入れてしまえばどこでも書けるので、全く手軽です。
ある曲を渡され、それに詞をつけなきゃいけないけど無茶苦茶に忙しかった時などは、出張でワシントンDCへ向かう機中で、詞を書いたこともあります。
また、言い方は悪いが、他人の曲には強い思い入れがないので、良くも悪くも歌詞で冒険できるのです。
これは、自分の貧弱なボキャブラリーを拡げる意味で、大きなメリットです。
例えば、「イケてる女」などというフレーズは、自分の曲には死んでも入れないのだけれど、実際他人の曲に堂々と書いちゃいました。
書いてしまってそれを眺めると、案外悪くない。そんなもんです。
自分は、どんな曲渡されても2~3時間で絶対歌詞を書く自信はありました。
昔は日本語でロックをやるのは是か非かみたいな不毛なテーゼが、プロアマを問わず大真面目に議論されていたらしいけれど、そんなことを軽く飛び越えたトコロにそのバンドはあったし、自分自身も、日本語でロックをやり続けることに何の疑問も持っていませんでしたね。
それにしても、自分が書いた詩(詞)に、ちゃんと曲をつけてくれるようなソングライターは、いないものでしょうか?
エルトン・ジョンのように**。
(まあ、アマチュアじゃ無理でしょうか)
【注】
前作「Sgt. Peppers' Lonely Hearts Club Band」がロックの金字塔と言われるほど滅茶苦茶に完成度が高く緻密な作りであった反動で、メンバーの個性がのびのびと発揮された愛すべきアルバムとなった。
まとまりが無い印象を与えながらも、全30曲のバリエーションはさながら「ロック大全」の趣きがあり、個々の楽曲も、実は佳曲揃い。
ちなみに「ホワイトアルバム」というのはジャケットが真っ白であったための愛称。
**エルトン・ジョン:
エルトン・ジョンには、作詞の強力なパートナーバーニー・トーピンが居た。
彼らのやり方は独特で、バーニー・トーピンが詩を書き、それにエルトン・ジョンが曲をつけるという方法で、ほとんどのヒット曲をたたき出していた。
エルトン・ジョンは詩を書くのが苦手なので、トーピンの詞を触ることなく、完璧に曲にしていた。