徹底したリアリズムが生んだ、バルサのトンでもない強さ
Barcelona 3-1 Manchester United
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マッチ・プレビュー
UEFAチャンピオンズ・リーグの決勝は、奇しくも2年前と同じ顔ぶれとなりました。
2年間で両チームは、どう変わったのでしょうか。
前線は、だいぶ選手が変わりました。
マンチェスター・ユナイテッドには、もはやクリスティアーノもテベスもいません。
バルセロナだって、エトオもアンリも、チームを去ってしまいました。
では、チームの完成度・成熟度ではどうでしょう。
マンチェスターUは、間違いなく2年前より数段レベルアップしましたね。
センターバックのファーディナンドとビディッチを中心とした堅守から繰り出す速攻のキレが素晴らしい。
今最も輝いているベルバトフと闘将ルーニーの、個性の違うフォワードの組合せも魅力です。ベルバトフの繊細かつ大胆なゴール前での動きは、溜息が出るほど美しく、個人的に大好きなんです。こういうエレガントな長身選手って。
対するバルセロナの、シャビ、イニエスタ、メッシのカンテラトライアングル(バルサ下部組織からの生え抜き3人組)は、中盤からのビルドアップと圧倒的なポゼッションにおいて、世界最凶最強です。
2年前のファイナルではマンUに何もさせなかったけど、同様の試合を展開する可能性は大いにあります。
むしろ、バルサはここ20年で一番いい状態に見えるので、どれだけのことをしてくれるのか、楽しみで仕方ありません。バルサは、今世紀最高のチームになっちゃう予感すらしています。
マンチェスターUの監督サー・アレックスも「今回はこの10年で最高のファイナルになるかもしれない」って言っています。
どこをどうとっても、もの凄く楽しいファイナルになりそうです。
バルサの強さが半端ない
いやあ、痺れました。
バルサの、恐ろしいまでの強さに、度肝を抜かれた感じです。
バルサのあり得ないほどの強さは、2年前のローマ決戦との対比で、より鮮明に浮き上がりますね。
ゴールを量産したクリスティアーノやテベスを擁した2年前と比較すると、マンチェスターUは、「個」に頼るサッカーから「組織」で勝つチームへと変貌しました。
最近のマンチェスターUは、前線からプレスをかけ誰もサボらない、そんな印象です。
しかもその変貌を経ても、チーム力はほとんど落ちていないのが驚異的です。
プレミア(イングランドの国内リーグ)の成績で見ても、得点数は80点/年前後で、全く落ち込むことはありませんでした。
蓋を開ければ、昨季は勝ち点1差で惜しくも2位、今季はぶっちぎりの1位。
まさにサー・アレックス・マジックです。恐るべし!
そのマンチェスターUが、ホームのオールド・トラッフォードで雪辱を期すのですから、いくらバルサと言えども2年前のように楽勝とは行くまい、そう思って観ていました。
案の定マンチェスターUは、ベルバトフというファンタジスタをベンチにすら置かず、汗かきアスリートをずらりとピッチに並べました。
そして中盤を省略し、DFやGKから前線に放り込んむ戦術を徹底しました。
リアリストだなぁ。
でも、これは全く妥当な采配なのです。
今季のバルサに「素」で立ち向かっては、万にひとつの勝ち目はありません。あのレアルが0-5の歴史的敗北を喫した”マニータの夜”(2010年11月29日、バルサがレアルを5-0で撃破したリーガ・エスパニョーラの対戦、マニータとは5点のこと)ショックは、世界中のサッカー関係者にトラウマを植え付けたばかりではありませんか
(モウリーニョ率いるレアルは素でバルサに立ち向かい、それがバルサの良さをことごとく引き出す結果となり、チンチンにやられた)。
サー・アレックスのこの戦術は、見事に奏功しました。
ところが残念なことに、この戦術は10分しか持たなかったのです。やっぱり。
10分過ぎからバルサが完全に中盤を制圧し、真綿で首を絞めるが如く、獲物を料理しにかかりました。
それでもマンチェスターUは、どんなに押し込まれても、ディフェンスラインをキレイに2列に保ち、決してバルサの球回しに安易に飛び込まず、じっと耐えました。
これは、もの凄く堅い守備です。
並みのチームなら、ボランチが簡単にディフェンスラインに吸収され、そこらじゅうに「門」ができ、その「門」にスルーパスを通されて、点がバカスカ入ってしまいます。
いったい何時バルサは狩りを始めるのか。そう思った矢先、27分のことでした。
メッシが、ダイアゴナルにペナルティボックスを切り裂きます。
その結果生じた一瞬のディフェンスの綻びを、シャビは見逃しません。右足アウトサイドの、あり得ない角度の、意表を突くタイミングのスルーパスを、ポッカリ空いたスペースに走り込んだペドロに、ピタリと供給してのけました。
ペドロはGKファン・デル・サールの裏の裏を突き、冷静にニアを抜くだけでした。
見事なゴール。プチ鳥肌。
こりゃあバルサの大量点かぁ?と思いきや、34分。スローインを奪ったマンチェスターUは、ルーニーが怒涛のカウンター開始。
ギグスへ当てた楔(実はオフサイドなんだけどもそんなことは誰も気にしない)を再びルーニーが右足に引っかけて、ダイレクトでサイドネットに叩き込みました。
マンU同点。敵ながら鳥肌です。すげぇぇぇぇ。
要は、このクラスになると一瞬の気の緩みが命取りになる、ということですね。
とは言え、マンUが追いついたおかげで、試合は俄然面白くなりました。
タラレバを言っても始まらないのは百も承知ですが、マンチェスターUが勝つとすると、この後畳みかけて一気にリードを奪って逃げ切る、あるいは後半のアタマ10分ぐらいで点を取りに行くしかなかったですね。多分。
だって、次の1点で試合が決まることは誰の目にも明らかだったでしょ。
ところが現実には、後半8分、メッシのゴールでバルサが再びリードすることになります。
これも凄かった!
何がすごいって、メッシは自分の芸風(マンチェスターUの最終ラインを突破し切って美しく点を取ること)を、キッパリ放棄したのです。
見事な「2列の罠」でバルサの攻撃を絡め取っていた蜘蛛をやっつけるには、遠くから飛び道具で仕留めるのが最も効果的。そういうことです。
しかし、針の穴を通すようなシュートを、名手ファン・デル・サールの手の届かにトコロに突き刺すのは、決して簡単なことじゃありません。
メッシの左足だからこその、スーパーゴールでした。
鬼の形相で喜びを爆発させる彼を見ていると、敢えて華麗な「崩し」を捨てた「戦略の勝利」だったと再確認させられます。
う〜ん。唸るしかない、見事なゴールです。
こうなると、バルサは余裕です。
サイドを個人技で突破したメッシのクロスを受けたビジャが、ループシュートを見舞った3点目のバルサらしい崩しは、全くもって見事と言うしかありません。
それにしても、バルサの圧倒的なポゼッションは、67%。何だそれ?
シャビのパス成功率は、91%。もはや、意味わかりません。
ま、そういう「サッカー基礎能力」の格の違いはありますが、ともかくこの試合は、リアリストに徹した者の勝利であった、ということです。
バルサは「美しいけど勝てない」時期も長く、それだけに、一発勝負の決勝などは脆い印象もあったのですが、ペップ・グアルディオラ監督の3年目、大人なリアリズムを追及して勝つべくして勝った。そういう強烈なインパクトを残した試合でした。
この試合に比べれば、2年前のそれなど子供のお遊びに過ぎない、そんな印象すら抱いてしまいます。
バルサはどこまで強くなるんでしょう?!
バルサの強さは本物だった
ここからは、試合後に加筆しました。
試合後ペップは、マン・オブ・ザ・マッチのメッシについて、こう語りました。
リオネル・メッシはこれまで見てきた中でも最高の選手で、 おそらく今後もこうした選手は現れないだろう。
バルセロナには良い選手が揃っているが、メッシ抜きでは、バルセロナがここまでの大躍進を遂げることはなかったはずだ。
一方、歴戦の名将サー・アレックスは、このときのバルサを
バルセロナはこれまでに対戦した中で最高のチームだった。
素晴らしいチームにはサイクルがあり、バルセロナがそのピークを迎えているのは間違いない。
この状態があと何年か続き、うまく世代交代できるかどうかは誰にも分からない。
バルセロナのサッカーには哲学があるが、常にシャビやイニエスタ、メッシのような選手を発掘できるとは限らない。
彼らのような選手は滅多に現れないものだ。
と語っています。
また別の機会には
シャビとイニエスタの2人なら、一晩中でもボールをキープできる
とも語りました(笑)。
この後バルサは、大陸王者として同年12月のFIFAクラブワールドカップに出場するのですが、そこでも圧倒的な力を見せつけます。
セミファイナルではアジア王者アル・サッドを4-0で軽~くしりぞけ、決勝では南米王者のサントスFCを、これまた4-0でコテンパンにやっつけました。
ここで少し補足しておきますが、南米チャンピオンと欧州チャンピオンが中立国で一発勝負で戦って、4点もの差がついたのは、後にも先にもこの時だけです。
しかも相手のサントスは、ペレやネイマールや、我らがカズなど、名選手を数多く輩出してきたブラジルの名門チームです。
この時のバルサが、どれほどトンでもないチームだったか、解ると思います。
長年バルサファンをやってきましたが、この時のバルサ程、心ときめくチームはありません。
やっぱり、今世紀最高のチームになっちゃうのかも知れません。