失敗しない起業は100回の失敗から~ネットの魚屋で得た経験

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武蔵小山創業支援センターからインタビューを受け、50代の起業について語りました。

「失敗しない起業は、100回の失敗から」

 

キッカケは、「予定の繰り上げ」

― 自己紹介を。

 

私は、28年在籍した某大手通信会社を、3年前に早期退職で辞めました。

最終的には起業したいなと思っていましたが、大きな企業に30年近くいたので、すぐに起業して成功するとは思えず、一旦ベンチャーで「ゼロから1を作るような仕事」をやりたいと思い、一旦そこに再就職しました。

イスラエルのベンチャー企業の日本フランチャイジーの「雇われ社長」をやったんですが、その会社は、1年で潰れました。

 

― そうだったんですね(笑)

 

3~4年そこで武者修行をするつもりだったんですが、1年で潰れ、3番目のキャリアとして考えていた起業を、じゃあ繰り上げてやるかと。

就職活動をするのにものすごく苦労をしたので、もうしたくないという思いもありました。
再就職をしようとするとすぐに半年1年経ってしまうし、雇われの身をもう一回やるよりは、もう飛び込んでしまおうということで、起業(第三の道)を繰り上げで始めました。

リンダ・グラットンさんもおっしゃったように「人生100年の時代」になっているので、20歳ぐらいで就職をして65歳ぐらいまで、ひとつの会社にずっと40~45年勤め上げて、それで後はリタイアというのがもともとモデルだったと思うんですけど、100年時代になると、たぶんそういう「一毛作」ではいかないんだろうと思うんです。

「二毛作」しないといけないんだろうと。
たぶん80歳ぐらいまでは、働かなきゃいけないんだろうなと思っているわけです。

ところが、大企業も含めて、今はまだまだシニアの再雇用とか延長雇用みたいに、「80歳まで働いていいですよ」という会社はどこにもありません。

そう考えたときに、専門性があれば「士業でフリーランスで独立する」という手もあったと思いますが、自分のキャリアは専門性がなかったので、やはり自分で仕事を作るしかないと思って起業かなと思った訳です。

20~25歳ぐらいから始まって仮に80歳までまであるとすると、55年とか60年とかあるわけですけど、
そうすると30年ずつぐらいがちょうど1タームで、これからもう1回30年、新入社員になったつもりで
頑張れば、たぶん30年後にはモノになっているはずだと思ったんです。

かなり無謀な起業でしたね、そういう意味では。

 

― 先を見据えられて起業されたというよりは、無謀という。。。

 

まあ今から考えると、準備というのはもうちょっときちんとやっておくべきだったなと、反省はあります。

やってみて、良かったこともいっぱいあったんですけれども、もっと賢くやれることは山ほどあったな、と反省しています。

 

準備は周到な方がいい

― 例えばどんな。

 

例えばですね、やっぱり集客の仕方だとか、あと、そもそもどういうビジネスに参入するかという、ビジネスの参入分野、それから、そこでどういうふう儲けるかというキャッシュモデルというかビジネスモデルを、もうちょっとシッカリ考えるべきでしたね。

何も考えていなかったなと思います、正直。

「打席に立とう!」と考えましたけれど、「練習が全然できていなかったな」という感じです。

 

― 今の事業を考えられたきっかけというのは、どんな感じで?

 

「通信」は「生活インフラ」で、生活に絶対必要な「かなり堅い」仕事でしたので、これからは「何か楽しいこと」をやりたかったんです。

要するに「二毛作目」は、これと真逆のことをやりたい、まず発想として。
大きな企業じゃなくて一人でやるし、生活必需品じゃなくて、もうちょっと人間の喜びに近いモノ、根源欲求に近いところに行けたら、と思いました。
偉そうですけど。

で、食べるの好きだし、じゃあ「食だ!」と思って。

食品の中でも、野菜だとか肉というのは、まあ保存が効いて簡単だし、「どうせやるなら一番難しい生モノの『魚』をやろう! 魚好きだし!」と、そういう感じですね。

 

― 魚をやろうって決めてから起業されるまでに、どれくらいの時間をかけて準備されました?

 

職を失ったのが、2017年1月です。

で、最終的に開業届を税務署に出したのが11月の末ですから、結局10カ月ぐらいで、逆にそれぐらいのスピード感で、ガーとゼロからやっちゃいました。

一番最初ナニやったっけな? あ、ドメインを取りましたね!

ドメインを取って、サーバーをレンタルして、自分でページを立ち上げて、それをしながらブログを書き始めました。

情報を発信する中で、早めにお客さんを集めたいという思いがあったので、2月上旬ぐらいから、旬のお魚を紹介するとか、日本の食文化は素晴らしいですよねみたいな話を、週に1~2本くらい。
それを書き溜めていくと、1年経って50~60本のボリュームになると、だいたい旬の魚は網羅できる感じになりました。

夏ぐらいにはホームページを立ち上げて、元々無料ブログをやっていたところから、それを全部自分のウェブサイトに移植して、開業届を11月に出ました。

何で11月にしたのかということですが、お魚は年末に一番売れるからです。

皆さん、築地の仲買のトコロに、年末に買い出しに行くというニュースなんか流れたりするじゃないですか。

正月に、おいしい魚を食べたいと思うので、その前までにお魚の販売業という届を出して、そこで商売を始めたかったんです。

 

― 需要に合わせて立ち上げたということですか?

 

そうです。

何故11月24日に届けを出したかというと、これが「いい日本食の日」なんです。

ユネスコの無形文化遺産で「和食」というのが登録になったじゃないですか。
それを機に制定した「11月24日はいい日本食の日」。

これだったら自分の創業日を絶対忘れないと思い、その日に出したんです。

ということで、12月の需要を睨んでということと、自分の理念ですよね、日本の素晴らしい和食ってのを何とか保全していきたい、ずっと次の時代にも継承してきていきたい、その一翼を担いたいという思いが両方あいまって、11月24日に届けようと勝手に一人で盛り上がって、そうしました。

 

― では、日本食の日と鈴木さんの想いと、お客さんのニーズがうまくマッチした。

 

そうですね。

それに、「1月から一人で準備するには、結果的にちょうどそれぐらいになってしまった」という感じです。

 

起業したからには、期限もタイミングも自分で決める

― そういう風にバタバタとお話されていますが、決めてすべて動くということってすごいですね。

 

サラリーマン時代と何が一番違うかというと、サラリーマンはやっぱり雇い主がいて、雇い主はお金を出している訳で、お金を出している人はやっぱり社員を働かせる訳です。

要するに、会社がちゃんと「尻を切って」くれるんです。

サラリーマンから離れて急に緩んで起業すると、自分でマイルストンをおかないと、ダラダラ行っちゃう。

だから今回の創業のタイミングにあたっては、一番考えたのは、やっぱりお客さんの年末のニーズを逃したら向こう1年つまんないぞ、ということでした。

お客さんが尻を叩いてくれたんですけど、できれば自分で自律的にやらなきゃいけないということが、起業の一番違うことの一つですよね。

肝に銘じないとダメですね。

 

― 11月24日に開業届を出されて、その後どういう感じで動いていかれました?

 

本当は、ホームページを作って、そこの中でECショップを作りたかったんです。

細かい技術的な話ですが、ブログを書いたりするのに適している「WordPress」でホームページを作ったんですけれども、WordPressにECショップを作れるパッケージがあるんですね。

そういうのを導入して、格好良く、お買い物かごがあって、ぽちぽちキリックするとクレジットカード決済ができて、みたいなものが11月までに作れれば、要するに良かったんですよ。

実はそれが間に合わなかった。

で、メールオーダー方式ですね。
メールオーダーというと、何かハガキとかファクスとかと近いかも知れませんが、あれの電子メール版です。

ブログの1記事に、年末のお魚のラインナップをこう揃えてますよと出して、それに対して、じゃあ鯛をくれとか、マグロをくれとか、エビが欲しい、カニが欲しいとかって、具体的にお客さんに申告してもらうってそんな感じで、とっても情けないスタイル。

でも始めましたね。

ECショップを整備したのは、結果的には年明け2018年2月でした。
年明けの需要が減ったところで、時間ができたのでミチミチ作った、という感じです。

 

― 開業から3年くらい経ってますけど、その間良かったことと、苦労したことはありますか?

 

苦労したのは、やっぱり集客ですよね。

おいしいものは増えていますし、いいものというはネットでちょっと検索するとすぐ見つかる、という状態の中で、じゃあ「何故すずきのところから魚を買うんだ」という理由が、買っていただく方には要りますよね。

そうなるとやっぱり、昔から私のことを知っている人間が、「こいつは悪いことせんだろ」って信用で
リピーターになってくれて、それでビジネスを支えてくれていましたけど、それだけでやっぱりビジネスが広がっていかなくて、新規顧客を拡大していきたいと思っていました。

「無料のメールマガジンを出しますから登録してくださいね」というところまでは、何百人単位でメールアドレスを私に教えてくださるんですけれども、そこからお金を出すというところはものすごくハードルが高いので、そこがすごく苦労しました。

起業2年目ぐらいから、物売りだけじゃなくていろいろ始めてみたんですが、例えば、移転前最後の「築地見学ツアー」を企画したりとか、レストランと提携して、そこで自分の魚づくしでご飯を食べていただくというリアルな「アンテナイベント」みたいなことをさせてもらったんですね。

つまり、「ネットの魚屋」は無店舗ですから、お前売っている魚って本当に美味いのか? ちょっと食わせろというニーズはあるんじゃないかと思って。

普段は「肴は自分で持ち込んでください」っていう日本酒飲み放題のお店で、「この日に限り食べ物フルコースで出すので手ぶらで来てください」ってイベントを月イチで打ちました。
「酒の肴は築地 de Night!」という名前でしたが(笑)これが結構好評で、キャパぎりぎりまで入ったこともありました。

だから単純な食材売りだけじゃなくて、リアルなイベントをやり始めたというのが、2018年の半ばぐらいからですね。

 

― すごく楽しそうですね。

 

実際に私がお客さんの反応を感じられるので、とてもそれはやりがいのある仕事だったですね。

自分で包丁を持って、捌くようになるとは思わなかったから。

 

― ITの操作では味わえない楽しさがありますよね。

 

失敗なんていうことはない

― 今後はどんなふうに展開しますか?

 

2019年ですけど、土用の丑の日の前日に、テレビに生出演させてもらいました。

深層NEWSというBS番組で、
「うなぎを今後も食べたければ、土用の丑の日にうなぎを食べていけない!」という
ちょっと大上段に構えたテーマでやりました。

隣には、ご兄弟が玉子焼屋さんやってらっしゃるテリー伊藤さん。

土曜の丑の日に、ものすごく消費が集中するわけです。

確か、丑の日1日で、年間の14%ぐらい食べてます。7月1カ月で3割ぐらい。
おかしいじゃないですか。

消費の集中に応じて「シラスウナギ」という稚魚が高騰するわけですけども、そうすると金儲けの温床になるし、それを養鰻場の生簀に入れて太らせるわけですね。

土用の丑に出荷できるように、天然では3年も4年もかかるプロセスを、半年で太らせるわけです。

ここにピークを持ってくるわけですから、ほかの季節は養鰻場ガラガラですよね。

人間だってそこに集中するというのは、労働単価も上がるし、いいこと何もないんですよ。

だから、ちょっとずつ分散消費すればたぶん10年20年もつものが、何年かで枯渇してきちゃうんじゃないかというのを主張したんです。

ニホンウナギって、絶滅危惧種のレッドリストで、トキとかジャイアントパンダと同じレベルなんですが、コンビニで売っているんですよ。
で、売れ残りは大量廃棄されているんです。

こういうことをやっていて、次の世代にこの食文化を残せなかったら、イヤじゃないですか。

「お父さんとかおじいちゃんの時代は、ウナギって普通に食べられたんだってね」って孫とか言われたらどう思います?
「おじいちゃんの時には普通にコンビニでウナギって買えたの? 牛丼屋さんでウナギも出してたの? へぇ」とか言われちゃうわけですよ。

それが、ほんの何十年後か姿かもしれないと思うと、今も我々の代でやらなきゃいけないことがあると思うんですよ。

そうだとすると、じゃあなんとかこれを保全していくためにみんな賢く消費しようよということ、流行りの言葉でいうと「サスティナビリティ」ですよね。
啓蒙といったら大袈裟ですが、そういうこともしたいなと思っています。

だから、食材屋さんをはじめましたけど、それよりも子供に魚に触れてもらって、食べておいしいみたいことを直接届ける「スクール」みたいなこともやりたいなと今は考えています。

偉そうに言っていますが、今回コロナの関係で、仲卸が直接消費者販売をするようになってしまって、結構私のモデル自体が、古くなっているんですね。

自分の理念が何なのかということを考えれば、やっぱり時代時代に応じて、いろいろなビジネスモデルを柔軟に変えていくとか、目的のために手段を変えていく、そこを柔軟にやっていくというのは、もしかしたらすごく必要なんじゃないかと思います。

やっぱり個人とか中小企業でやっていくというのは、同じような動きを大企業がやってきたらひとたまりもありませんから。
ランチェスターの法則じゃないですけど、奇襲したり、集中してリソースを投下したりして、どこかで大企業が真似できないぐらいのトンガリ方で、そこでニッチな市場を全部取るみたいなことを、常に常にやっていかないといけませんね。

やった途端に陳腐化しますから。ビジネスモデルって。

でも逆にいうと、こういう変化の大きい時代だからこそチャンスも大きいので、これから起業を目指す方も、頑張っていただきたいなと思いますね。

 

― それでは最後にメッセージを。

 

なんというか、身も蓋もない結論なんですけど。
やはり、頭でいろいろ考えるより「やってみる」ということが大事だと思うんです。

ビジネスっていうのは、ユニクロの柳井さんもおっしゃっているように、1勝9敗なわけですよ。
打席に10回立って1回ヒットが出ればいい、ホームランなんか最初から狙っちゃダメだということですから、とにかく打席に立つということが大事だと思うんです。

で、その時に、一回失敗してダメにならないように、何かお金のかからないやり方で打席に立つのだ大事で、これだけは自分はできていたと思います。

つまり、ネットで固定費がほとんどかからないスタイルで魚屋をやってみたというのは、これ、失敗してもそんなにダメージはないんですよ。
通信費が月に、ま、1万円とか2万円とかぐらいしかかからないので。

それが店舗に持つとなると、やっぱり10~20万円、下手すると100万円というお金が毎月出ていくわけで、そこをカバーするというのはものすごく大変。
その意味で「ダメになった時のダメージが少ない商売のやり方で、いっぱい打席に立つ」というのが大事だと思います。

打席に立った時に、では消費者の方々は何を求めているか。
消費者ではなく、もしかしたら企業相手の商売なのかもしれませんけれども、少なくともどういうふうなニーズが市場にあるのかというのを、なるべく多く味わってみることです。

市場とかやり方のポイントを探って「ああここだな」という、だんだんラケットのスイートスポットに当てる感覚で微調整していく、という感じでしょうか。

たぶんビジネスのプロセスで、それはもうとにかく、場数だと思います。

だって、テニスだって野球だって練習しないと当たるようになりませんよね。

なので、やはり起業して失敗したらもう立ち直れないみたいな投資を、最初にしない方がいいですね。
それだけは本当に言っておきたい。

ただ、そうでなければ、何回でも立ち上がればいいんです。

エジソンも言っているように「失敗なんていうのはない」んです。
「うまくいかなかった方法を1個見つけただけなんだ」という風に言っていますから、成功までのプロセスを楽しむと。
「あ、こっちじゃなかった、あ、こっちこっち」と、そういう感覚でいっぱいトライしていただければと思います。

起業すると素晴らしいことはいっぱいあるので、自分の好きな夢をお客さんに届けるということを、なんとか諦めずにやってもらいたいと思います。

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